小説的な

DM外伝 ルチル・ラドライト

クオの記憶にある彼の姿は、透明感のある長い髪をまとめるための質素な帽子と、掴めば壊れてしまいそうな華奢な肩だった。 工房「メレーホープ」の作業台に向かう彼は、クオが話し掛けても決して振り返りはしなかった。彼の中にはドールの事しかない。それは…

七夕

歴史の転機は18世紀だか20世紀だか、熱心な研究家は今の日本国の内部分裂はその時を境に悪い方へ向かってしまったと言う。 歴史にもしもは無い。月白(つきしろ)はそう思う。“もしも”が存在してしまうなら、今の自分は間違えた道を歩んでいると認めてし…

宇宙警察ロールちゃんの事件簿01

書きかけだけど、ネット上保存←+++ 「宇宙警察」といえば、古いフィルムにもヒーローとして度々題材にされ、シリーズ化もされていた華やかでカッコイイ憧れの職業だ。 だが、実際の所はリスクばかりでかくて地味で疲れる。給料は良くても遊ぶ時間などない…

天花―あとがき

天花・・・・・・天の花嫁 知らなくても問題ない! 知ってるとちょっと得!? 裏話コーナー!! <わーわーどんどんぱふぱふ〜 大分と間あいちゃったけど、ちょっとぽろぽろと。 予定無いから言っちゃうと、ラックの本名はラウス。 ラテン語で灰色を意味するravus…

天花ー毒吐く樹精

前回までのお話 旅をしながら行く先々で詐欺師の真似事をしていた青年ラックは、古くからの友人であるダグに借金を返すために裕福な娘を騙そうとしていた。しかし、娘の屋敷に賊が侵入した事で予定が狂ってしまう。困った男が取った選択は――財宝の噂のある「…

天花ー白銀と花嫁

前回までのあらすじ 樹の生き物に襲われたラックだったが、運良く窮地を脱することが出来た。代償に持っていた荷物をすべて失ってしまうが、唐突に表れた謎の少女のおかげで、宝の手がかりらしきものを聞くことが出来た。「イヴの歌」を求め、青年は尚も彷徨…

天花ー黄金の森

「おい! ラック!」 「……なんだ?そんなに急いで」 いかにも路地裏でカツアゲでもしていそうな濃い眉毛の目つきの悪い男が、青年の方へ慌ただしく駆け寄ってくる。 ラックと呼ばれた金髪の青年は、鬼のような形相で睨まれながらも飄々とした態度で「どうし…

季節外れの

「そういえば、お花見出来なかったなあ」 若草色のパーカーを着た少年が、公園のベンチから足を垂らしながら呟いた。 誰に言うわけでもない独り言は雲一つない青空にとけて、同じように隣に座る少年にだけ届いた。 「お花見?」 古い和服の生地で母が継ぎ接…

とあるバンド組の日常

オリ☆パラ 「コスプレしよう!」 「……………………………遠慮したい」 いつものパッとしない部室の隅っこに、陰気な顔した触覚生やしたみたいな黒髪の男子学生が一人。折角ぼくがナイスな提案をしているのに、心底嫌そうな表情でその地味な男子、のりおはたっぷりと無…

内と外・SABI話

少年は外で遊ぶのが大好きだった。 外には同い年の友達がいて、一緒に公園で騒ぐのが楽しかったからだ。 外の世界には新しい発見がたくさんあって、少年は学校が終わると夕方までずっと友達と遊んでいた。 鮮やかな葉の表面をのそのそ動く幼虫を捕まえて、女…

Tragedy of Brihas 02

「たいちょ〜。腹減った〜」 「情けない声を出すな、馬鹿者!!」 一面緑の森の中、隊長と呼ばれた女性と、お腹をぐるぐる鳴らしながら歩く青年の姿があった。 女性は露出の多い軽装で、黒と灰の混じった髪をしている。長く編まれた灰色の髪の毛先は炎のよう…

Tragedy of Brihas 01

ブリハスの悲劇・・・・・・ これは、後に『布告の焔』と呼ばれる、ブリハスの森で起きた事件の顛末である。 「ラーフ軍、進軍の恐れ有り」 それが、ラーフ国付近へ諜報に出ていた者からの最初の報告だった。 秘密裏に進めていたと思われる進軍は、数日の内に現実…

Tragedy of Brihas 04

エレがラーフの者達が放った火を消化し終わった頃、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。燃える前は生い茂る木々で隠されていた空には、煌々ときらめく星たちが顔を覗かせていた。 天上から降る星や月明かりのおかげで、明かりが無くてもドライグ達が駆けて行…

Tragedy of Brihas 03

「お主のおかげで助かった。 ウル、と言ったか。案内してもらっておいてなんだが、森の外の者を助けても良かったのか?」 「それは大丈夫です。同じ竜の仲間ですから」 手持ちの食料でわずかばかり腹を満たしたあと、エレ達はウルの案内で緑竜の集落を目指し…

ハロウィンは終わらない

サンホラのハロウィンまとめの記事挟んじゃいましたけど、この前は絵チャありがとう御座いましたー!!やっぱり絵チャは楽しいね!! リアルタイムで完成していくのを見てると、焦りつつもいい刺激になるよね。 そしていつも後になって「変なこと言ってない…

DM−カーネリアンの輝石

僕の名前はネリア・ガネット。 ドールマスターになって有名になるのが夢の女の子です。 今は三大ドールマスターの一人であるルチル・ラドライト様のもとで、メイカー修行をしている真っ最中! 今日もルチル様の工房「メレーホープ」の床をきれいにお掃除。 …

SABI小話・休憩中の3人

「てん ててて てーん♪」 自分の手の中の小型ゲーム機の電子音に合わせて、つい自分も口ずさんでしまう。 このゲームで一番楽しい瞬間だ、とタイガは思っている。 「・・・・・・・・・・・・う、ここで無音はキツイ」 ただし、一番胃が痛くなる瞬間でもある。 「またゲ…

SABI−エンカウント

砂の雨が降る。 打ち上げ花火のように、しかし花火と呼ぶには程遠い錆色が弾け飛ぶ。 散らばり落ちる砂の雨は徐々に黒い雨へ変化していく。 その光景は、古いフィルムに残された人類の忌むべき行いを思い起こさせる。 “ソレ”と戦う者であれば誰もが嫌悪する…

日常の始まり・後編

スーリヤは比較的温暖で住みやすい土地だ。 犯罪を犯す者が一人も居ない・・・・・・とまでは言わないが、貧富の差は少なく商業も盛んである。先王・リオスの代にはラーフ国との派手な衝突があったが、現在は表立った戦は起きていない。 そう。スーリヤは平和な国…

日常の始まり・前編

サン・オーアは基本的に不真面目な国王である。 今日も業務を抜け出して、庭でひとり、ティータイムを楽しもうとしていた。 現国王であるサンの母、ヴィア王妃が愛した花の庭。この庭園は常に城の者が手入れをしている為、妃が亡くなった今でも、色あせぬ美し…

七夕の奇跡

「短冊に書く願い事、何にしたんだ?」 隣に立っていたハスキーがそう尋ねてくる。 今日は七夕。ここ、うごメモ町でも皆で集まって笹に短冊を飾っていた。 今年もまだ、ボクはあの笹の一番高いところに願いを掛けられない。いつかは自分の手で・・・そう思って…

ボツ?会話集

イラストだと良くある、描きかけで続かなくなった文章を蔵出し(笑 ただ単に文章量が少ないってものも。 + + + 宙を流れる奔流が砂塵を巻き上げる。 通り道を流れる彼らの音色に、少しとがった耳を傾けてしっかりと進路を探る。 三角帆の向きを調節しつつ…

百万回の虹を

彼女と出会ったのは、見晴らしの良い草原だった。 天気雨が通り過ぎた後の、嘘みたいに晴れ渡った青空。七色の虹が水色のキャンパスに伸び伸びと描かれ、その端に掛かった大きな木の下に彼女は立っていた。 彼女はいつも、草原にポツンと立つ、年輪を重ねた…

明晰夢の神様

大正浪漫な世界で「ちょっと・フシギ」な出来事を繰り広げる、1話完結型の話描きたい。 いや、ちょっとお話思いついちゃって。あと、ベルっちのスイッチさんの影響で、短編描きたくなった。 可愛い娘さんと、街にふらりと立ち寄ったおじさんの、少しフシギ…

商人一行・迷う

そこは道ではなかった。 ならば何処なのかと聞かれても、道ではない何処かを歩く一行には答える事は出来なかった。 視界いっぱいに、膝下まで伸びた雑草が生い茂り、時折岩場が見える以外は何も無かった。 旅をする4人の他には小さめの行商によく使われる荷…

或る日の昼下がり

「サンの好きな女性のタイプってどんな方ですか?」 いつもの庭で、いつもの白いテーブルを間に挟んで、彼女は唐突にそう言った。 紅茶のカップを口に運んでいた俺は心の準備など出来ているはずもなく、 「ぶふぉっ!」 汚いとは思いつつも、反射的に噴き出…

緑の女神

その日、デルは仕事をなくした。 デルは筋肉質で、大柄で、むさ苦しい見た目に似合わず美しいものが好きだった。 だから彼が選んだ仕事も「古美術商の手伝い」という、雑用のような目立たない仕事だった。 しかし悲しいかな。彼は見掛けどおりの男だった。一…

天使の白い花

スーリヤの特殊部隊である「ギュールズ」の隊長、エレイン・コールブランドは異世界から帰ってくるつもりがないらしい・・・・・・そんな噂が流れてから数日が経った日のこと。 隊の者たちはこれからのギュールズがどうなるのか不安に色めき立っていた。 「エレ隊…

幸せの白羽

幸せの色は何色だと思いますか? 里を出た日から、それが自分の口癖になりました。 幼い時分より言われていたことがあります。 「お前は一族の中でも特別美しい白羽根だから、皆に幸せを与えなさい」 周りの仲間達は自分を見てありがたそうにしていたけど、…

愚者と海魚

海で生まれて、海で生きてきた。 これからもずっとブドゥハの海で生活するんだと思ってた。俺には生涯を捧げたいような夢や目的は無かったし、毎日が平和に過ぎていくならそれで良いと思っていたからだ。 幼い俺にはそれ以上の未来を考える頭は無かった。 あ…